ジャーナル
伊賀の地で作陶を続ける作家、新 学(あたらし まなぶ)さん。その作品の根底にあるのは、古伊賀の精神を受け継ぎながらも、現代の食卓に静かな力強さを添える、実直な手仕事です。 今回は、土と火の対話から生まれる「灰釉(かいゆう)」と、深く鮮やかな「織部(おりべ)」の魅力をご紹介します。 ■ 土と灰が織りなす、自然な色合い 新 学さんの器を眺めていると、そこにはひとつとして同じ表情がないことに気づかされます。 力強い土の質感に、木を燃やして生まれた灰が降りかかり、窯の中で高温にさらされることで生まれる色彩。 それは、計算された美しさというよりも、土と火と灰が対話を重ねて生まれた「自然そのものの色」と言えるかもしれません。 緑がかった深い発色や、流れるような釉薬の景色は、食卓に奥行きを与えてくれます。 ■ 織部 ― 深い緑が引き締める、静かな対比 灰釉の柔らかな変化に対し、新さんの手がける「織部」は、キリリとした表情が魅力です。 深く、瑞々しい緑。その色が器の輪郭を際立たせ、食卓に心地よい緊張感と華やかさをもたらします。灰釉と織部、それぞれの器を並べて使うことで生まれる、土ものならではの豊かなコントラストも、新さんの器を揃える愉しみのひとつです。 ■...
新しく迎えた器が、その家の道具として馴染んでいく。 今回は、器を、より健やかに永く愛用していただくための基本をまとめました。 ■ 使い始めに 御結では、粉引や斑唐津、焼き締めなど、作家それぞれの個性が宿る器をご紹介しています。そのため、扱い方も一様ではありません。 一般的に推奨される「目止め」も、器の種類や作家の作風によっては、かえってシミやニオイの原因になることがあります。それぞれの器に合わせた、最適な向き合い方を大切にしたいと考えています。 そこで私たちがお勧めしているのは、 最初にご使用になる前、たっぷりの水に半日から一日ほど浸すこと。その後、水分をきれいに拭き取ってから使い始めてください。 ■ 使うたびに 料理を盛り付ける前のひと手間が、器を保護します。 温かい料理には、ぬるま湯を 冷たい料理には、冷たい水を 器にさっと潜らせてからお使いください。 醤油や油分が染み込みにくくなるだけでなく、料理の温度を保ったまま、より美味しくいただくことができます。使うたびにしっとりと肌合いが深まっていく、経年変化をお楽しみください。 ■ 洗い方と、しまう時 ...
食卓に少しの彩りを添えたいとき、最も手に取りやすいのが「豆皿」です。 醤油皿や薬味入れ、あるいは小さなおつまみを載せる。 手のひらに収まる小さな面積の中に、作家の個性が凝縮されています。 豆皿は、作家ものの器の世界を知るた入り口としても最適です。 ■ 手のひらに載る景色を、日常に 豆皿の魅力は、その自由さにあります。 大きな皿では少し勇気がいるような個性的な形や色も、豆皿であればアクセントとして気軽に取り入れることができます。 「今日はどの豆皿を使おうか」 そんな小さな選択が、日々の食卓にわずかなゆとりを生んでくれます。手頃な価格帯のものが多いため、少しずつお気に入りをお迎えしていく楽しみがあるのも、豆皿ならではの魅力です。 ■ 磁器の端正さと、手描きの温もり 今回ご紹介するのは、清涼感のある白磁と、古典の意匠が美しい豆皿です。 和食器 らしい端正な造形は、和食はもちろん、ナッツやチーズを載せて洋の食卓に合わせても違和感なく馴染みます。 【おすすめの豆皿】 ・白磁豆皿(文祥窯) ...
南青山の店舗で荒賀文成(あらが ふみなり)さんの器を手に取ると、その独特な柔らかさに意識が向きます。荒賀さんが手がけるのは、日々の食卓に実直に寄り添う「粉引(こひき)」の器です。 ■ 粉引という、育つ景色 荒賀さんの代名詞は、白い泥土を重ねて焼く粉引の仕事。 真っ白な磁器とは異なり、下地の土の色がうっすらと透け、鉄粉と呼ばれる小さな黒い点が顔を出します。 この「土の気配」が残る表情こそが、荒賀さんの器の魅力です。 荒賀さん自身、「粉引は使い込んで風合いが育った様子が美しい」と語られています。使い込むほどに色が馴染み、味わいが増していく。器を「育てる」という楽しみを、日々の食卓で感じさせてくれます。 ■ 道具としての、軽やかな造形 ろくろで丁寧に引かれた薄く端正な造形は、実際に手に取ると驚くほど軽く、日々の献立を重苦しくなく受け止めてくれます。 作家もの 器は、飾るための美術品ではなく、日々使われるための実直な道具。 特別な料理を用意せずとも、その器があるだけで食卓の空気が落ち着く。 荒賀さんの仕事には、そんな実直な「用の美」が宿っています。 長く専門店の現場を見守ってきた私たちの背景も、こうした「実直な道具」としての器選びに繋がっています。 ■ ご紹介した器 ・粉引六寸ふち立皿 ...
窓から入る光が少しずつ力強さを増し、草木の緑が鮮やかになってきました。 日々の食卓にも、どこか瑞々しさを求めたくなる季節ですね。 うつわ御結の店舗でお客様とお話ししていると、よく「陶器と磁器って何が違うの?」というご質問をいただきます。 なんとなく「土っぽいのが陶器、白くてツルッとしているのが磁器」というイメージはあるかと思いますが、その違いを知ると、自分にとっての実直な器 選び方がより明確に見えてきます。 今日は、そんなやきもの 種類の基本について、少しお話しします。 ■ 「原料」と「温度」が作る、二つの表情 最大の違いは、その「原料」と「焼成温度」にあります。 陶器(とうき) 粘土(陶土)を主原料とし、1,000〜1,200度前後で焼き上げます。 粒子が粗いため吸水性があり、手に持った時のぬくもりや、どこか素朴で柔らかな質感が特徴です。使い込むほどに色が変化していく「育てる」楽しみがあるのも陶器ならではの魅力です。 磁器(じき) 石の粉(陶石)を主原料とし、1,300度以上の高温で焼き上げます。 非常に硬く、吸水性はほとんどありません。光を通すほど薄く仕上げることができ、端正で凛とした表情を持っています。 ■ 私たちのおすすめの「使い分け」 その時の気分や料理に合わせて選ぶのが一番おすすめです。 例えば、朝の静かな時間に温かいお茶を飲むなら、熱が優しく伝わる陶器の湯呑みが心地よいですし、暑い日にキリッと冷やしたお刺身やサラダをいただくのであれば、清涼感のある磁器が料理をより涼やかに見せてくれます。...
季節は春まっさかり。 何かが新しく始まる時期に、新しい器を一から揃えようとお考えの方も多いかと思います。 でも、器を選ぶことが本当に「初めまして」の場合、「では何から揃えたらいいのだろう?」と迷う方も多いのではないでしょうか。 形、サイズ、素材、色、、、 初めて作家ものをはじめとする器に触れる場合、一度に買い揃えないといけないと感じるかもしれません。 まずは、「これ、いいな」と思える器から。 枚数は人数分でなくても大丈夫です。 同じ種類の器を揃えなくても、少しずつ増えていくことで、組み合わせを考える楽しみも生まれます。 統一感を出したい場合は、銘々皿(取り皿)だけ人数分揃えたり、箸置だけ揃えたりすると、まとまりやすくなります。 実用的に必須な器から買いたい! という場合は、まずは普段、ご自分が召し上がるお食事を考えてみてください。 「カレーやワンプレートが多いな」という場合は直径22-24cmくらいの程よい深さのお皿がお勧めです。 ご飯とおかず、という食事であれば、お茶碗に加えて、よく食べるおかずに合わせた器を。 お魚が多いのか、お肉が多いのか、汁物はどのくらいの頻度で登場するのか。 日々の食事から考えていくと、自然と必要な器が見えてきます。 では、いくつか組み合わせて選ぶ場合は? いくつかまとめてのご購入を検討されている場合は、...
桜の便りが聞こえてくる頃、食卓にも少しずつ春を取り入れたくなります。ふきのとう、たらの芽、白魚——春の旬の味わいは、盛り付ける器ひとつで、その美しさも深みも変わります。 器は、料理の最後の衣装です。季節にふさわしい器を選ぶことは、食卓に豊かな時間を贈ること。この春、うつわ御結がお届けする「春の器たち」をご紹介します。
さて、先日ご紹介した『うつわ羈旅vol.2』――本田直之さんを聞き手としてお迎えし、宮坂さん、酒井さんに器の選び方についてお話を伺った記事の英語版を作成しました。 日本語版の作成時から印刷用の記事作成を担当し、何度も何度も、何度も読み返し、推敲を重ねました。 インタビュー記事なので、私が大きく加筆することはありませんでしたが、本田さんが丁寧に引き出してくださったお二人の言葉の奥にある想いが、読み手さんにしっかりと伝わるように力を注ぎました。 器との出会いから、お客様へのおもてなしの心まで―― 宮坂さんの言葉の端々からは、器そのものへの敬意と、そこに寄り添う感性が静かに、けれど確かに伝わってきました。 茶道のたしなみ、京都の料亭で培われた目と心。そうした背景があるからこそ、季節のうつろいを感じさせるしつらえや、空間そのものに宿る“もてなし”の気配に、私は何度も息を呑みました。 日本人がふと口にする「あ、いいな」という感覚。 それは誰もが心に持ちうるものかもしれませんが、それを他者へと手渡すには、知識やセンスはもちろん、細やかな気配りを惜しまない姿勢が必要なのだと、あらためて気づかされます。 そしてそれを、宮坂さんはまるで呼吸をするように、自然に実践されている。 以前『ようび』についてジャーナルを書いたとき、気づけば何度も宮坂さんの姿が思い浮かび、胸が熱くなったのを覚えています。器を通して見える世界の豊かさを、また一つ教えていただいたような気がしています。 そして、酒井さん。 器、食材、お酒、スタッフ――すべての存在に、背景ごと丁寧に目を向けるその姿勢に、何度もうなずかされました。 ただ「良いもの」を選ぶのではなく、それがどこから来て、誰の手を経てここにあるのかまでを大切にされている。そのまなざしは、単なる“選び手”ではなく、つくり手と共に歩む“つなぎ手”のようでもありました。 器に対する知識も想いも、自分は到底敵わないなぁと遠く感じながらも、 その語り口にふと作家さんたちの顔が浮かび、酒井さんの事をお話ししたら 「こんなふうに器を見てくれる人がいるんだ」と、きっと嬉しく思うだろうな、と、私まであたたかい気持ちになりました。 また、お話の端々からは、共に働くスタッフへの気配りや育成にも力を注がれていることが伝わってきて、思いやりが自然ににじむそのあり方に、酒井さんの懐の深さを感じました。...